アトピー性皮膚炎の発症は乳幼児期から小児にかけて多く見られますが、近年は成人発症も多く、難治であることもしばしばです。皮膚バリアの低下(乾燥肌)、アレルギー反応を起こしやすい体質、環境要因が様々に関係しており、治療は保湿(バリア改善)や抗炎症外用薬、抗アレルギー薬を適切に使用することで大半の方はコントロール出来るようになります。
また近年アトピー性皮膚炎の治療はステロイドだけでなく、PDE4阻害薬(外用剤)、JAK阻害薬(内服・外用)、生物学的製剤(デュプリマブ:IL-4/IL-13受容体モノクロナール抗体・ネモリズマブ:IL-31 受容体モノクロナール抗体)注射剤等、アトピー性皮膚炎の炎症をピンポイントで抑えていく治療法も開発され、飛躍的に進歩を遂げています。
アトピー性皮膚炎について、赤ちゃんのスキンケアや塗り薬の使い方など、さらに詳しい情報をお知りになりたい方はこちらをご覧ください。
外用治療
症状や年齢に応じて適切なステロイドや保湿剤を中心とした治療を行い、落ち着いていく過程でタクロリムス軟膏やモイゼルト軟膏(PDE4阻害薬)、コレクチム軟膏(JAK阻害薬)等を併用し、ステロイド外用を減らして寛解状態をめざします。
*モイゼルト軟膏は生後3か月より、コレクチム軟膏は生後6ヶ月より、タクロリムス軟膏は2歳から使用可能です。
生物学的製剤による治療
外用を中心とした治療を十分行なっても難治なアトピー性皮膚炎患者さんに適応となります。アトピー性皮膚炎における炎症をピンポイントでブロックするため、副作用が少なく、痒みやバリア改善効果が高いです。
デュピクセント®皮下注射
デュピクセント®(デュピルマブ:IL-4/IL-13受容体モノクロナール抗体)は、アトピー性皮膚炎の病態で重要なTh2(タイプ2)炎症の主たるサイトカインである、IL-4の受容体(IL-4Rα鎖)に対するモノクローナル抗体です。近年、アトピー性皮膚炎のTh2炎症は皮膚のバリア機能の低下や痒みを増悪させることが分かってきており、このTh2炎症を抑えることで、痒みがなくなり、皮膚のバリア機能が回復します。
当院でも多くの患者さんから、「痒みが楽になり、皮膚が滑らかになった」といった声が聞かれています。全身療法でありながら、明らかな免疫抑制がないため、感染症や発ガン性などの懸念が無いこともメリットです。
アトピー性皮膚炎では小児から大人まで幅広い年齢に適応となっておりますが、中等症以上(ステロイドをはじめとする抗炎症外用薬を一定期間行っても改善しない方、皮疹の範囲が広い方)の症状の方に適応となります。喘息やアレルギー性鼻炎にも効果があります。
30㎏未満の小児は1ヶ月に1回(初回、その後も1本)、成人・30kg以上の小児は2週間に1回皮下注射を行います(初回は2本注射します)。当院で治療をしている方は症状のチェックや血液検査を定期的に行い、治療評価をして投与間隔を開けていく方もいます。
結節性痒疹・慢性蕁麻疹にも適応が追加されました。詳しくはこちらをご覧ください。
お困りの患者さんは是非一度ご相談下さい。
ミチーガ® 皮下注射
ミチーガ®(ネモリズマブ:IL-31 受容体モノクロナール抗体)は、アトピー性皮膚炎の「かゆみ」を誘発するサイトカインであるIL-31をターゲットとしたヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体である生物学的製剤です。
IL-31RAは末梢神経以外にも、好酸球、好塩基球、肥満細胞などの免疫細胞や角化細胞にも発現していることから、IL-31はかゆみだけでなく、炎症や皮膚のバリア機能低下にも関与していると考えられています。
副作用として、皮膚感染症や上気道感染、皮膚炎の悪化などがありますが、従来の免疫抑制剤よりも感染症のリスクが低く、かゆみに対する効果の高いお薬です。
4週に1回の皮下注射を院内で行います。6歳以上の難治性アトピー性皮膚炎の方、特に痒みの症状が強い方におすすめの治療です。また近年、結節性痒疹にも適応追加となりました。注射間隔はアトピー性皮膚炎と同様です。
お困りの方はご相談下さい。詳しくはこちらをご覧ください。
※2024年6月から6歳以上の小児に適用拡大されました。自己注射も可能です。
抗ヒト IL-13 モノクローナル抗体(アドトラーザ® 、 イブグリース®)
IL-13はアトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚に過剰に発現しており、IL-13の発現量は疾患の重症度と相関しております。
アトピーの炎症にかかわるケモカインやサイトカインの分泌を刺激して炎症反応を増幅し、皮膚バリアの低下、抗菌ペプチドの産生を低下させたり、痒みのシグナル伝達を活性化します。同薬剤はIL-13を選択的に阻害することで、アトピー性皮膚炎の炎症を特異的に抑制できる薬です。
アドトラーザ®(トラロキヌマブ)
初回600mg(注射4本)を皮下投与し、2回目以降は300mg(注射2本)を2週間間隔で投与します。
- 15歳以上のアトピー性皮膚炎の方
- 従来の治療(ステロイド外用治療等)では十分な効果が得られないアトピー性皮膚炎の方に適応
となっています。
*2024年4月より自己注射も可能となりました。詳しくはこちらをご覧ください。
イブグリース® (レブリキズマブ)
初回及び2週後に1回500mg、4週以降、1回250mgを2週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて、4週以降、1回250mgを4週間隔で皮下投与することができます。
レブリキズマブは半減期が長いため、4週間隔での投与も可能です。
- 12歳以上かつ体重40kg以上の小児アトピー性皮膚炎の方
- 従来の治療(ステロイド外用治療等)では十分な効果が得られないアトピー性皮膚炎の方に適応
*こちらは院内での注射治療のみとなっております。詳しくはこちらをご覧ください。
ネオーラル® (シクロスポリン)内服療法
尋常乾癬や様々な自己免疫疾患に使用されている免疫抑制剤です。T細胞抑制によりアトピー性皮膚炎の炎症を抑制します。腎機能障害、高血圧、発ガン性などの副作用があるため、薬剤を使用できる期間が決まっていますが、炎症抑制効果は高く、他の全身治療薬よりも比較的低額のため、急性期の患者さんに適応となります。
内服のJAK阻害薬
従来よりリウマチ疾患に適応となっていた薬剤であり、生物学的製剤に比べて感染症(ヘルペス、毛嚢炎など)や発ガン性のリスクはあるものの、他の免疫抑制剤より安全性が高いため、胸部レントゲンや採血で問題がなければ、長期使用が可能です。(定期的採血が必要となります)
その機序は炎症の信号を伝える経路のひとつである「JAK-STAT(ジャック・スタット)経路」をブロックすることで、サイトカインが受容体にくっついても炎症やかゆみを引き起こす信号が細胞核に伝わらないようにし、アトピー性皮膚炎の症状に関与する複数のサイトカインの働きを抑えることで、かゆみや皮膚の炎症を抑えます。
生物学的製剤に比べて感染症(ヘルペス、毛嚢炎など)や発ガン性のリスクはあるものの、他の免疫抑制剤より安全性が高いため、胸部レントゲンや採血で問題がなければ、長期使用が可能です。(定期的採血が必要となります)特に即効性や炎症抑制効果が高いため、季節により重症化しやすい方や、一時的なストレスや環境によって悪化している方(花粉皮膚炎、受験生など)におすすめします。JAK阻害薬は現在3種類(リンヴォック®、オルミネント®、サイバインコ®)あり、抑制効果や副作用、適応年齢にも差があるため、患者さんにあった製剤を選択致します。
*JAK阻害薬の小児適応はリンヴォック®、サイバインコ®は12歳からです。オルミネント®は最近2歳以上の小児に適応が追加されました。
*生物学的製剤や内服のJAK阻害薬は高額医療ですが、医療費助成制度などもあるため、年齢や症状によって適応を相談させていただいております。お困りの方は是非一度ご相談下さい。
<注意事項>
内服のJAK阻害薬は妊婦または妊娠している可能性がある方は服用することができません。 妊娠可能な方は、JAK阻害薬を服用している間 および服用終了後少なくとも一月経周期は、適切な避妊を行ってください。 なお、JAK阻害薬を服用している間は、授乳 しないことが望ましいです。